最大級の集客力をもつ東京新宿を中心とした商圏の旗艦店である本店を核としながら、そこで確立されたビジネスモデルや運営手法をグループ全体で共有化するという積極的な戦略を進めている。同社は、全国32社67店舗の百貨店が参加して共同仕入れをはじめとした協業体制を推進する「全日本デパートメントストアーズ開発機構(ADO)」を主幹。本店、立川店、吉祥寺店など7店の直営店はもとより、九州の井筒屋や岩田屋、名古屋の名鉄百貨店、北海道の丸井今井など、各地域の有力百貨店を結集したグループパワーで、市場変化に迅速に対応した店舗運営を推進、確かな実績を上げているのである。 浦田氏は、伊勢丹が進めているアライアンスの強化についてこう説明する。 「成熟市場の中で、百貨店間競争はますます激化しています。 その中で、お客様本位の姿勢に立って『欲しい商品を欲しいときに欲しい価格で欲しい量だけ』という体制を実現するには、より強い調達力とそれを支える企業体力が不可欠なのです。つまり、お客様がお求めになるものをタイムリーに過不足なく品揃えするためには、企業アライアンスの拡大と強化を進め、グループ一丸となったスケール感とより大きな市場影響力で、商品を提供されるお取引先にもメリットをフィードバックする体制を築いていく必要があるのです。 もちろん、独自企画によるPB(プライベートブランド)を生み出す際にも、お取引先にスケールメリットを提供することで協業関係を強化でき、グループ百貨店にもより優位な仕入条件が提示できます。その結果はそのままお客様メリットにもつながるのです。私たちが進めているアライアンス強化は、そんな“Win-Win-Win”構造を築くための基盤となるものなのです」
システムの再構築に際しては、同社のアライアンスの強化に対応するものとしてシステム化範囲を再定義。さらに、今後の環境変化の中でも柔軟に対応できるフレキシビリティやアプリケーション品質の向上なども、焦眉の課題だったのである。 またMDシステムは、財務会計や仕入管理、販売管理をはじめとする基幹システムやPOSシステム、さらにそれらを基礎としたDWHとの深い連動が求められる。しかも、実際のビジネステンポに即した構築期間の圧縮も不可欠の条件だった。そこで、将来を見据えた弾力的で俊敏なビジネス対応性とプラットフォームに依存しないユーザインタフェースの実現などを総合的に考慮した結果、オープンなアーキテクチャモデルが不可欠との結論に達し、旧来のC/SからJ2EEベースへの移行が決定された。
プレ段階における厳しい検証・評価を踏まえ、同2004年6月から182万ステップにも及ぶ大規模な実開発フェーズがスタートした。商品コード体系の整理や各システムに散在していたマスターの統合などと歩調を合わせながら、オープンソースのフレームワークを積極的に利用して開発を進め、2006年9月にMDシステムの全面移行を完了させたのである。 「これまで逐次的に部分改修が続けられてきたシステムは、全体最適の本線から少し外れた支線が生じ始めていたことも事実です。そこでまず『これまでの歪みを浄化すること』に努め、あるべき業務フローの姿を描き直し、それをシステムで具現化することを意識しました」(浦田氏) そもそも「お客様が欲しいものが、いつでもそろって」おり、「毎日新しい発見がある」売場づくりは店舗全体に活気をもたらし、お客様の来店意欲と購入意欲を一層促す、という好循環を生む。この流れを維持しながらムダやロスのない効率的なMD戦略を実現するためには、単品管理によるリアルタイムな商流把握と売れ筋・死に筋管理が基本となる。 そこで伊勢丹では、先駆けて、早い時期から徹底した単品管理を実施してきたのである。その結果、季節等により多少の変動はあるものの、現在では色・柄・サイズごとの区別を含めた約1700万SKUにわたる単品管理が実施されている。かつて多くの百貨店では、サプライヤの営業担当が商品管理や発注業務を代行しており、百貨店側のマネジメントは支払管理が中心だった。したがって商品管理も品番レベルまでが主流で、いまだに単品管理率はあまり高くないのが実情だ。その中にあって、これだけきめ細かな単品管理精度を擁した伊勢丹のMDシステムは、国内はもちろん世界の流通業の中でもトップクラスを誇っており、企業成長の原動力となってきたのである。その意味において、同社のMDシステムは、いわば同社のビジネスの歴史、歩みそのものであり、長い歴史を経て培われた同社のノウハウが凝縮したシステムとなっていた。 そして今回の再構築で重要となったのは、それらノウハウを活かしながら、これからの時代のビジネス環境へ対応していくことだった。つまり、積極的なアライアンス戦略や、業界におけるビジネスのスピードであり、伊勢丹ビジネスのアーキテクチャと対応したITアーキテクチャ形成が今回の新MDシステムのポイントだった。「今回のシステム改革が経営戦略を支える重要なポイントであるということはトップ自身がアナウンスし、 さらに各部門に対して、新たなフレームワークに基づく業務ルールの説明会を開催しました。事前に『みんなで変革に向かうのだ』という機運が醸成されていたので、現場ではかなりスムーズに受け入れられました。一方、ユーザ画面がWeb化によるブラウザベースになったのを機に、私たちも全体のイメージやボタンの位置を極力統一することに努め、新たに他のシステムを活用する場合にも、ゼロベースで操作を習得しなくても直感的に扱えるように心掛けました」(早乙女氏) 「また、今後アライアンスが拡大する中でスピーディにシステム変更ができるシンプルさと柔軟性が今回のポイントでした。さらに、お客様情報の秘匿性や内部統制の徹底に関わる認証や承認など、セキュリティ対策にも万全を期す必要があります。所属部門や階層、職務等によるアクセス制限やログ記録の徹底など、総合的な対策に努めています」(下田氏) 「アライアンス先の百貨店に、単品管理を完全にマスターしてもらうことが最優先課題です。その中で蓄積されたデータを経営資産として分析したり、次の施策への意思決定に反映させたりするのは、業務の仕組みを堅牢にした次の段階でないと意味がありません。つまり、その基礎となる真の単品管理が徹底してこそ、精度の高い予測や分析が実現するのです。その意味では、今後その効果が徐々に顕在化してくると思います」