 |
≫ |
|
|
 |
 |
| 分散する複数のコンピュータをネットワークで結び、仮想的に高性能コンピュータを構築して膨大な情報の高速処理を実現する「グリッド・コンピューティング」。複雑な分析・開発などに有効な方法として世界で活用されていますが、実現できる環境を構築するには、複雑なプロセスやコストを要するなどさまざまなハードルが……。そんな課題を克服しようとHPが開発したのが、オープンソースのソフトウェア「Our Grid」。次世代コンピューティングの扉を開く、画期的技術の「今」に迫ります。 |
 |
|
|
 |
|
|
 |
 |
|
|
 |
 |
気象学、物理学、薬学、航空宇宙学、経済学、デザイン……など、さまざまな分野で多くのブレークスルーをもたらしてきた「グリッド・コンピューティング」。ただしその技術の恩恵を受けるには、巨大なネットワークの構築や、エントリーのためのネゴシエーション(交渉)など、利用の前に多くの手続きを踏まなければならない“壁”がありました。
そこでHP研究所では、手軽にできるグリッド・コンピューティングを目指し、ブラジルの研究者らと共に、オープンソースのソフトウェア「Our Grid」(最新版はOur Grid3.0.2)を開発。グリッド・コンピューティングのネットワーク・コミュニティ構築やユーザのエントリーを容易にすると共に、コミュニティ内での大容量のリソースのやりとりを通常のネットワーク環境で可能にし、これまでより格段に簡単なプロセスでグリッド・コンピューティングのメリットを利用することができるようになりました。
|
|
|
「グリッド・コンピューティングはこの数年で大きく進歩したものの、ほとんどのユーザにとって、実用からはほど遠いものでした。このような状況を変え、必要とするすべての人が、グリッド・コンピューティングのパワーを利用できるようにするのがOur Gridです」と語るのは、Our Grid研究プロジェクトを立ち上げた、カンピナ・グランデ大学(UFCG)のウォルフレード・シルネ氏(Walfredo Cirne)。
彼が立ち上げた開発プロジェクトに、さまざまなグリッド・コンピューティング関連プログラムに取り組んでいたHPが資金提供を開始したのは、2003年のこと。その後、HPブラジル、英国ブリストルのHP研究者のスタッフも研究に加わり、共同で研究が進められることになりました。途中、オープンソースの利用というアプローチが、一般的なグリッド・コンピューティングのコミュニティからは懐疑的に見られがちだったなど困難もありましたが、研究を続けた結果、その成果を形にすることができたのです。 |
 |
|
|
 |
 |
 |
|
|
 |
 |
では通常のネットワーク環境の中で、どのようにしてリソースを増やすことができるのでしょう。Our Gridは「好意のネットワーク(Network of Favors)」と呼ばれる「ピア・トゥ・ピア(peer to peer)・プロトコル」によって、ユーザ間のリソース交換を行う、というのがその基本です。つまりユーザは、他のユーザがアプリケーションを実行できるよう、自分の未使用リソースを「好意」で提供することを奨励され、それを実行することで、逆に同じような好意を、コミュニティから受け取る機会が増える、という仕組み。
「ある意味ユーザは、“自分の活用されていない未使用リソースを、後に使用するまで、コミュニティに預けている”という考え方(HPブラジル研究開発マネージャ、ロケ・シェール[Roque Scheer]」であり、「自分がコミュニティに提供したリソースとほぼ同じリソースを、自分も受け取ることが確約される(シェール)」……そうした「ピア・トゥ・ピア・ネットワーク」によって、コミュニティ全体の中での仮想コンピューティングが成り立つというわけです。
「 “Webがデータで行っていることを、グリッドはリソースで行う”と言われるように、グリッドの考え方もWebと同じ。限られた中でしか使えない専用システムであるより、シンプルで、分散化できて、オープンなシステムであった方が、多くのメリットを生みます。この点でOur Gridは、標準的なグリッド・コンピューティングよりも進んだアプローチだと考えることができると思います」と語るのは、このプロジェクトで、システムのリソース割り当てのメカニズムを担当し、HPブリストル研究所でオンライン・コミュニティ強化顧問を務めるミランダ・モーブリー(Miranda Mowbray)。 オープンソースのソフトウェアをダウンロードするだけで自動エントリーできること、そして通常のネットワーク内で自在にリソースを増やせる技術であることが、Our Gridの大きな特徴であると指摘しています。 |
|
|
|
 |
 |
 |
|
|
 |
 |
そんな画期的なOur Gridですが、まだまだ少なからぬ課題を抱えているという側面もあります。たとえば、既存のネットワークで情報を分散させるので、特定のマシンが使用可能かどうかを知る手だてがなく、グローバルな監査証跡がつけられずに暗号の提供ができない、という問題。そのため現状では限られた情報しか利用できず、スケジューリングやリソースの割り当て、セキュリティ確保のための新たな方法を見つけることなどが、クリアすべき課題となっています。また今は、データマイニングや、大規模な検索作業、大量の画像処理、コンピュータを利用した生命工学など、それぞれ独立した状態で実行可能な小規模タスクに分解できるアプリケーションで使用されていますが、もっとアプリケーションの種類を広げて利用できるよう、改善していく必要もあります。
こうしたさまざまな課題は残るものの、Our Gridの考え方や有用性は多くの科学者たちが認めており、すでに干ばつ予測や医学研究など、さまざまな分野での成果が伝えられています。
たとえば医学研究では、リオデジャネイロのある研究プロジェクトが、薬品の精査にOur Gridのグリッド・コンピューティングパワーを活用し、ブラジルやアフリカの一部で一般的となっているHIVの変異体に治療効果を発揮する薬品の特定に成功しました。また、たびたび厳しい干ばつに苦しめられてきたブラジル北東部のセルタォン地区の干ばつの周期予測モデルを改善するため、システムリソースを利用した実験が進められ、この地区での水の供給や救援プログラムの効率化が期待されています。
「これらの研究は、人々の命を救い、被害の抑止に大きく役立つことになるでしょう」と、UFCGのシルネ氏。ブリストルのモーブリーもまた「薬品の選別や、干ばつ地域の水資源確保を可能にするプロジェクトに関わることができるのは、本当に素晴らしく、やりがいのあること」と語り、Our Gridが社会に大きく役立つものであると確信しています。 |
|
|
|
 |
 |
 |
|
|
 |
 |
もちろん、こうした共同研究によるグリッド・コンピューティング技術進歩の成果は、その他のさまざまな分野にも活用されることが期待されています。その一環として英国ブリストルでは、グリッド・コンピューティングのリソース割り当てのメカニズムが、アニメ映画制作のサービスユーティリティにも利用できるかどうかを判断する実験が進行中(詳細は12月号の記事「アニメで“ユーティリティ・コンピューティング”を切り開く」に掲載)。
またHPとUFCGでは、現在もさまざまな用途でのグリッド・コンピューティング実用化を見据えて、大規模なコミュニティを持つグリッドの作成や、その中でのスケジューリングやリソース割り当て、実行可能なアプリケーションの種類をどのように増やすかなどの研究が行われており、モーブリーによれば、今後の大きな課題は「コンピューティングパワーの共有だけでなく、データの共有のためにOur Gridをどう拡張するべきか」なのだとか(HP Brazil-sponsored grid)。
HPはこれからも、グリッド対応製品の開発、大規模なデータ管理や分析支援を目的としたコンピュータリソースのグリッドへの接続、グリッドを世界中に広げるのに必要な「Global Grid Forum」でのグリッド規格の制定など、多岐にわたるグリッド研究を推進する予定。誰もが気軽にリソース共有ができる「新しいコンピューティング時代」が急ピッチで切り開かれ、グリッドが商業ベースで活用されたり、世界中で共有利用される日が来るのも、そう遠いことではないようです。
|
|
|
|
 |
|