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| 映画フィルムは、時間の経過とともにキズ、収縮、色褪せなどが見られるデリケートなもの。修復してデジタル保存することもできますが、時間のかかる手作業となるため、ごく一部の限られた作品のみ適用されているのが現実でした。そんな状況を一変させるのが、ワーナー・ブラザーズとHPが共同開発した、新しいメディア処理技術。懐かしい名作をオリジナル以上に美しい映像でよみがえらせる、画期的技術の中身とは……? |
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世界には多くの映像作品が残されていますが、そのメディアである映像フィルムは、ゴミや傷が着きやすく、時間とともに縮んだり色褪せたりという劣化を避けられない運命にあります。修復してデジタル保存することも可能ですが、作業に多くの人的・時間的コストを要するため、実際にデジタル化されるのは、ごく一部の作品のみ。その他の何千本もの古い映画は、世界各地の倉庫で眠ったままになっているのが現状です。
それは、「風と共に去りぬ」「ロビンフッド」「キングコング」を始め、多くの名作を世に送り出してきたハリウッドの映画配給会社、ワーナー・ブラザーズ(以下WB)にとっても、大きな課題となっていました。
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 ≫ 処理前後の「キングコング」の一コマ(右が未処理、左が処理後の画像) |
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「ライブラリーには世界中で愛された膨大な名画が保管されています。これらはビジネスに役立てられる“貴重な資産”でもあるのですが、優れた映像を次世代の人々に楽しんでもらえるようにすることは、私たちの使命でもあるのです(WBの技術開発担当取締役副社長チャック・ダグズ氏)」。
この問題を解決するため、HPはWBと手を携え、フィルム保存のための研究を続けていましたが、ついにその解決策を見いだすことに成功。メディア処理の新技術「ビデオ処理パイプライン」の開発によって、今まで手作業するしかなかった復元プロセスの大半を、一つのエンジンの中で「自動化」できるようになり、従来より飛躍的にスピーディに、しかもオリジナル以上に美しい画像をよみがえらせることが可能になりました。テストクリップでは、スカーレット・オハラがレット・バトラーのもとへ階段を駆け下りるシーンが美しい背景画面で映し出され、ロビンフッドが闘うシーンもより鮮明に、キングコングは透き通るようなマンハッタンの空に向かってビルを登っていく……等々、結果は上々。今後の展開に向けて、大きな期待が寄せられています。
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では、どんないきさつでこの新技術は誕生したのでしょうか。WBのダグズ氏は次のように述べています。
「映画を見るためのメディアは、時代の変遷とともに変化し続けてきました。VHSビデオからDVDへ、そして今は次世代光ディスクフォーマットであるHD-DVDやブルーレイへ……その進化は大きなビジネスチャンスとなる一方で、さまざまな課題を生む要因にもなってきました。例えば、ビデオ変換された作品は、そのままハイビジョンのフォーマットに変換することはできません。また、保管されている多くの映画をハイビジョンフォーマットに対応させるには、コマを1つ1つ超高解像度のデジタルデータへと変換していく必要があるのですが、もともとのコマに傷やゴミがあると、それらがそのまま“ハイビジョン”でデジタル化され、たくさんのゴミを“マウス操作で地道にゴミを除去する”ことが不可欠となります。このプロセスを私たちは、HPのテクノロジーで自動化できないかと考えたのです」。
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 ≫ 処理前後の「キングコング」の一コマ(右が未処理、左が処理後の画像) |
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一方、HP研究所はこれまでフィルムの復元に取り組んだことはありませんでしたが、静止画やパーソナルビデオの作業については豊富な経験を持ち、「そのノウハウをフィルム復元プロセスに応用できるのでは」と考えました。実際、研究所で以前行われた「古い蔵書のにじみを修復するためのカラーセンサーの開発」の技術は、「フレーム内の他のカラーパッチのエッジ情報を利用して、カラー部分のにじみを消すための単レンズカメラ」に活用されました。また、超高解像度ビデオ用に開発した「隣接するフレームの情報を組み合わせて特定フレームの解像度を高める技術」は、復元された映像の解像度アップのために役立てられるなど、さまざまな技術の応用によって、構想は現実のものとなったのです。
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では、「ビデオ処理パイプライン」では具体的に、どんな復元処理が行われるのでしょう。まず、フィルムの各コマを一連のアルゴリズムで処理し、不自然な形を含むコマだけを取り出します。例えば、前のコマに比べ色が大きく変化している画素を探し、同時に同じコマの中で、隣接する部分と大きく異なる領域、色で言えば純色や、固有色といったものを探していく……こうした作業が自動的に行われていきます。
次に、傷の修復をするのですが、例えばコマの中に、赤、緑、または青の斑点ができている場合には、ソフトウェアを使用して、周囲の部分から補完した情報でその部分を埋めます。複雑なコマは手作業で修復しなければなりませんが、ほとんどの部分は自動修復できるので、手作業の量は劇的に減らすことができます。
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 ≫ 処理前後の「西部開拓史」の一コマ(上が未処理、下が処理後の画像) |
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こうして修復された画像は、オリジナルのカラーネガをスキャンしたものの場合、まったく新しい命を吹き込まれたような画質となり、その目覚ましい効果について、HPのタイム・ワーナー担当グローバルマネージャ、リチャード・プレイスは「ロビンフッドの鎧の鎖や、スカーレット・オハラのドレスのレース模様など、これまでは明確に見られなかった部分まで、鮮やかに再現することができるのです」と語っています。
ただし、対象となるフィルムの種類によって、さまざまな課題もありました。例えば、モノクロ映画をデジタル化した場合、情報量が少ないため、傷やゴミなどが見分けにくくなります。また、初期の白黒映画は画質が粗く、カメラのシャッター精度の低さが要因で各コマの露出がばらついてしまい、ちらつきが起きてしまうのです。
さらに困難だったのは、シネラマで撮影された作品の場合です。シネラマとは、3台のカメラで同時に撮影した映像を、湾曲したスクリーンに3台のプロジェクタで同時に映写するという特殊な技術でワイドスクリーンを実現したもの。曲面のスクリーンに映写するように撮影されているため、家庭用のビデオフォーマットのような平面用に変換すると、画像が歪んでしまうのです。また、3つのフレームの継ぎ目があるため、これをスムーズに見せる技術も要求されました。
この問題を解決するために、研究チームは、1962年の歴史大作「西部開拓史」の修復に取り組みました。「縦線の問題を解決するために、フィルムにインクを転写する方法と非常によく似た、紙へのインク転写技術を応用しました。また、別のアルゴリズムによって、歪みも解消することができました(HP、リチャード・プレイス)」
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こうした多くの成果について、ワーナー・ブラザーズのダグズ氏は「研究の結果、何十年も解決できなかった問題を簡単に解決することができたのは、大変素晴らしいこと。この新技術があれば、多くの名作を、後々の世代まで楽しむことができるでしょう」と賞賛しています。
今後この新技術の恩恵は、ハリウッドの映画会社以外にも広がっていくことになりそうです。実際、米国議会図書館には無数の映画フィルムがあり、インドや香港などの映画大国を始め、世界には膨大な数のフィルムが保管されています。
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 ≫ 処理前後の「西部開拓史」の一コマ(上が未処理、下が処理後の画像) |
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「フィルムは傷つきやすいという欠点はあっても、スタジオ保存用にはやはり最適のメディアです。また、今はデジタル全盛時代ですが、映画やハイビジョンドラマの撮影にはフィルムが使われることが圧倒的に多いのが現状。当社の保管室では、フィルムは600年保存できるようになっていますが、今後そうした保管のために、この技術は大きなメリットをもたらすことになるでしょう」と、WBのダグズ氏は述べています。
では、この技術における今後の課題は何でしょうか。HPとワーナー・ブラザーズでは今、「シーンの内容に合わせて、自動的に感度を調整できるプロセス」を考案しています。例えば戦闘シーンで、飛んでいる矢を間違って傷だと判断してしまわないように、ソフトウェアの感度を上げる、といった自動調整機能が必要とされています。
また、フィルム1本を復元するには、膨大なコンピューティングリソースも必要で、それをどう確保するかも大きな課題となります。ちなみに、約172,800のコマがある2時間の映画を、1コマ5分で処理するとしても、完全に修復するには、延べ約600日もの日数が必要なのだとか。「フィルムの復元をスピーディに行うには、数テラバイトものストレージ容量が必要だと考えられます。そこで、フィルムの選択、複数のサーバへの送信、効率的処理、サーバの増減などに対応できる、サーバクラスタなどを整えることが大きな課題となってきます。ちなみにこのプロセスでは、HPが、海賊版ビデオに悩むコンテンツ所有者のために開発した最先端データセキュリティ技術も利用することができます」とHP研究所のシルヴァスタインは、今後の構想について説明しています。
いずれにしろ、「ビデオ処理パイプライン」が、映画を後生に伝えるために大きく役立つ、優れた技術であることは明らか。HPの研究の成果が、世界の映画フィルム保存のベスト・スタンダードとなり、より多くの人が鮮明な画像で古い名画を楽しめる日が、遠からずやってくるに違いありません。
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