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西日本を代表する医療機関である九州大学病院は、医学や歯学の分野における診療から研究、教育までを担い、西日本地域での高度先進医療、地域連携をリードする中核的な存在である。この九州大学病院が理念として掲げるのは「患者さんに満足され、医療人も満足する医療の提供ができる病院」。最先端の医療を志向しながらも、研究や教育の面に偏ることなく、患者の要望も十分に反映しながら質の高い医療サービスを提供しようとしている。
こうした理想の実現に向け、同病院では1998年から新病院の建築プロジェクトをスタート。そして2002年には新病院1期棟(南棟)、2006年には2期棟(北棟)、さらに2009年には3期棟(外来診療棟)が相次いで開院した。こうした動きと並行して、カルテやレセプト(診療報酬明細書)の作成、検査や薬剤処方のオーダリング、医療会計の管理といった診療に伴う一連のプロセスをカバーするHIS(病院情報システム)の整備を順次進めてきた。
患者を中心に、主治医と専門医が診療科の枠を越えて見守るCCC構想
しかし、救急患者や重症患者といった急性期にある患者の場合、外科や内科、麻酔科といった診療科の枠に縛られない体制で診療が提供されないと、患者の生命に危険が及びかねない。このため、診療科の枠を越えて、患者に関係する様々な情報を簡単な操作で、スピーディに共有する必要がある。急性期患者を診療することの多い同病院の手術部ではこうした認識を早くから持ち、新病院建築プロジェクトの進展に合わせて、医療情報共有のためのITシステム構築に長年にわたって取り組んできた。
こうした医療情報共有システム構築の背景となっているのは、前九州大学大学院医学研究院麻酔・蘇生学教授の橋成輔氏(NHO九州医療センター名誉院長、現佐賀県赤十字血液センター所長)が、20年来唱え続けてきた「CCC(クリティカルケアセンター)構想」である。CCC構想の趣旨は「一人の患者を、主治医とそれを支える複数の専門医で見守っていく」というもの。
細分化・専門化が進んでいる現代医療にあっては、“専門性に名を借りたたらい回し” の状況に陥ることがあり得る。一刻を争う急性期の患者にとって、こうした状況は文字どおり命取りにもなりかねない。それを回避するため、治療全体をコーディネートする主治医が患者の症状や生命への危険性などを総合的に評価し、必要な専門医を決定、患者は主治医と相談しながら治療を進めるというものだ。「全診療科にまたがる横断的な生命管理のためのインフラを用意する」という言い方もできるだろう。
「CCC構想を具現化するには、こうした人的な体制に加え、患者の治療に必要な情報を、治療の効率が落ちないよう、素早くそして簡単な操作で引き出せるように支援する、医療者にも患者にも役に立つ情報システムの存在が不可欠です。手術部ではこうしたシステムを『CCCシステム』と総称していますが、新病院建築プロジェクトに歩調を合わせて、10年以上にわたりCCCシステムの拡充に努めてきました。」橋教授と二人三脚でCCC構想の具現化に取り組み、ITの活用面を担ってきた同病院手術部の白石公徳氏は、CCC構想におけるITの重要性をこう語る。
データ量が大きくなる動画像データの記録、保管、閲覧が長年の懸案
CCCシステムの具現化の歴史は、10年ほど前に実施した高速ネットワークの敷設に始まる。その後このネットワーク上で様々な医療機器をつなぐと同時に、電子カルテに代表される患者の文書情報を管理するシステム、CR(コンピューターX線撮影)やCT(コンピューター断層撮影)に代表される静止画像情報や放射線動画像を管理するPACSシステムなどが構築されてきた。そして患者と紐付けされる形で検査のデータや静止画像をいつでも容易に引き出せる環境ができあがり、HISを中心に活発に利用されてきた。
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国立大学法人九州大学 九州大学病院手術部 白石 公徳 氏 |
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「動画像についても、簡単な操作で見たい映像をすぐに取り出すことのできるシステムを実現したいと、以前からずっと検討はしていました。しかし、ストレージの性能、コストパフォーマンスなどの制約からなかなか形にできず、歯がゆい思いをしてきました。」と白石氏。しかし、2009年の新外来診療棟の開院を控え、構築の必要性を痛感。一連のCCCシステムと連携できる「動画像ファイリング統合システム」の新規開発プロジェクトをスタートさせた。
白石氏に限らず、広く医療の現場では、容量の大きな動画像データをいかに記録・保管し、必要な時にストレスなく瞬時に読み出せるかという課題を抱えてきた。「たとえば胃の内視鏡検査では、口に入り、のどを通っていくところから、胃の中の様子までずっと映像として見ることや記録することは可能です。しかし、これと同様な検査画像を含む医療画像すべてをデジタルデータとして一元的に記録ファイリングしようとすると、データ量が膨大になってしまいます。このため記録された動画像や静止画像を部門的にファイリング・管理し、HISをとおしてユーザーに閲覧してもらうという方法をとるのが一般的でした。この方向性が間違っている訳ではありません。大事なことは、これらの医療画像を一元的に利用できるビューアーシステムが必要なことです。これまでに静止画像はHISで一元的に利用できたのですが、動画像に関してはデータ量やアクセススピードなどの問題のため実現できませんでした。」(白石氏)。
しかし、こうした検査映像以上に白石氏が重視していたのは、手術の様子を記録した術中映像だ。「すべての診療科の医師が同じものを見たいというケースは少ないのですが、同じ診療科であったり自分が関係する患者であったりすれば、非常に参考となるだけに、手術映像データもきちんとファイリングできるようにしておきたかったのです。しかし、手術は数時間、時には1日以上に及ぶことがあり、いつ終わるかもわかりません。当然、データ量はさらに膨大になります。もちろん導入コストに制約がなければ、解決方法はあるでしょう。しかし、高い性能を限られた予算の中で、というと候補は限られてしまいます。」(白石氏)。
この「動画像ファイリング統合システム」の共有ストレージとして採用されたのが、HP Storage Enterprise Virtual Array(EVA)ファミリーのエントリー機、HP EVA4400だった。
高速I/O、拡張性、可用性が評価されHP Storage EVAの採用が決まる
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株式会社エス・ワイ・シー 代表取締役社長 山田 清春 氏 |
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九州大学病院へのシステム提案取りまとめを行ったエーシーケーの下で、共有ストレージの具体的な機種選定およびシステム構築にあたったエス・ワイ・シーの代表取締役社長、山田清春氏はHP EVA4400提案までの経緯をこう語る。「SANを使いたいという病院からの要望に加え、動画像ファイリング統合システムの共有ストレージに必要な要件を検討したところ、高速なI/Oスピード、データ容量の柔軟な拡張性、高い可用性、といったポイントが浮かび上がってきました。」
動画像ファイリング統合システムでは、大容量の動画像データをリアルタイムにストレージへ書き込み、同時にバックアップしていくことになる。また、“ファイリング統合システム”というように、保管データを読み出すためのデータビューアーや医療機器共通のデジタル画像規格に対応したDICOM画像、さらにはビデオカメラから取り込む手術映像など、ストレージには3〜4種類のアプリケーションの入出力が並行して発生。保管すべきデータ量も合計で50TB程度が見込まれ、将来的には増大が予想される。一度きりの術中映像だけに、記録の中断やデータ消失も許されない。そして、ストレージ内に保管されているデータの利用は24時間365日続く。
「こうした厳しい要件を満たしたうえで、価格はより低く抑える必要があります。そのため当初は低価格なHP Storage Modular Smart Array(MSA)ファミリーでの提案も検討しました。」と山田社長は打ち明ける。しかし、複数アプリケーションの入出力を並行してこなす点で不安が残ったため、ワンランク上のHP Storage EVAファミリーの中からエントリー機であるHP EVA4400を選択。「しかし、さらにハードウェアコストを削るため、いくつかの工夫を盛り込みました。」(山田社長)
より低価格なFATAディスクとバックアップ機を組み合わせ総コストをさらに削減
コスト削減のための工夫点は大きく二つあった。まず一つ目は高性能なものと低価格なものという2種類のディスクドライブの混載。HP EVA4400では、ファイバーチャネル・ディスクと共通のインターフェイスを備え、同一筐体内にファイバーチャネル・ディスクと混在が可能なFiber Attached Technology Adapted(FATA)ドライブが利用できる。高速I/Oが必要なデータベース用にファイバーチャネル・ディスク、低速なI/Oでも問題のない動画像データ格納用には低コストなFATAドライブ、と使い分けができるためディスクの総コストを下げられる。
二つ目がバックアップ用ストレージとして、より低価格ながらディスク・ツー・ディスクのバックアップが可能なHP MSA2000を組み合わせたこと。これでさらなるコスト削減ができた。
「厳しい技術要件とコスト要件を一つ一つ潰していってみると、HP EVA4400だけが選択肢として残ったというのが結論です。」と山田社長。
HP Storageは広範なラインアップ、豊富なオプションという特長も生かしながら、九州大学病院の要求をすべてクリアーした。
トラブル回避のために検証センターを活用、稼働後はディスクの障害率の低さに驚き
また、落札から機器の正式発注までの短い期間を使って、エス・ワイ・シーは東京・市ケ谷にあるHPの検証センターで数回に分けて事前検証を実施している。「たまたま組み合わせたソフトウェアとファームウェアの相性が合わなかったりすると、稼働後に予期せぬトラブルが起きることもあります。このため、大きな開発案件ではできる限り事前検証を行い、トラブル発生の芽を潰しておくという方針を当社ではとっています。」と山田社長は語る。
今回の動画像ファイリング統合システムのケースでも、複数のアプリケーションがストレージを共有し、データの規模も50TBと大きいことから、入念な事前検証を実施。ダミーデータを同じ容量用意し、できるだけ本番稼働時に近い検証環境を作ったうえで、アプリケーション会社やHPのエンジニアにも立ち会いを求めた。「検証センターの利用は非常に役に立ちました。予想していなかったトラブルが発生しても、HPのエンジニアからその場で問題解決のための的確な技術的アドバイスを提供してもらうことができ、安心して構築フェーズに入っていくことができました。」(山田社長)
テープやDVDでの術中映像管理が大きく変化、煩雑だった編集作業もパソコンで
動画像ファイリング統合システムが稼働して以降、術中映像の扱い方は大きく変わろうとしている。以前であれば映像はテープやDVDなどのメディアに取り込み、メディアごとにシールを張るなどして管理していた。しかし、このシステムが動き出したことで、必要な映像を、映像のサムネールを見ながら簡単に、しかも迅速に取り出せるようになるという。
また、教育用であればメスを入れるところから、学会発表用であれば重要なポイント映像だけ、といったように目的に応じて術中映像を編集している。アナログビデオテープを利用した時代には非常な手間と高価な編集機器が必要だったが、パソコンの性能がアップし低価格な編集ソフトが使える現在においても、このシステムにより記録時に映像がデジタル化されファイリングされることで、今後、より簡単にしかも短時間に編集作業を終わらせることが可能になる。
「動画像ファイリング統合システムが管理している動画像や静止画像のほとんどは、HISから直接参照できるようになっています。今後はHISとの連携をさらに深めるとともに、動画像ファイリング統合システム側では、ハイビジョン映像などの高精細化対応などを進める必要がでてくるかもしれません。一方、個人情報保護法に基づく患者情報のあり方、ここでは手術映像の情報開示をはじめ情報共有および情報利用に関する病院的運用のあり方が、今後の課題といえるでしょう。」と白石氏は語る。3,000人近い同病院の医療スタッフが日々活用していける同システムは、これからも着実な進化を遂げていくことになりそうだ。
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