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※註:この物語はフィクションで、登場する人物・団体は全て架空のものです。
(前回のあらすじ:ヤマタイ産業COOの桐原洋一は、他社との厳しい競合が想定される燃料電池事業などの分野において、求められる体制革新に社内ITシステムが追いついていないことにいらだっていた。そんなとき、IT部門の若手女性社員・中条かすみが、学生時代に学んだという疎結合のシステムについて話し出した。それはSOAと呼ばれるコンセプトだった……。)
数日後、かすみが桐原に面会を申し込んできた。案内を受けて執務室に入ったかすみは、挨拶もそこそこに勢い込んで話しはじめた。
「先日お話ししたSOAの件なんですけどぉ、やはり実用化が始まっていて、かなりいい線に達しつつあるみたいなんです。」
「SOA?」
桐原は一瞬とまどい、それから曖昧に想い出した。
「……ああ、変化に強いアーキテクチャー……だったっけ?」
「はい、そうです。既に企業での採用例も出ていますし、実践的なセミナーなども開催されているようです。ウチの会社にも、導入できるのではないかと思うのですけどぉ……?」
まだ根拠とて乏しいはずの彼女の気負いが、むしろ桐原の眼には頼もしく映った。先日のベンチャーとの話し合いも課題を残したまま先送りとなっている今、かすみの活気に逆に彼のほうが鼓舞されていた。
「よし、もう少し詳しく資料を揃えてくれ。検討してみよう。」
「分かりました!」
桐原は、かすみの溌剌とした表情に明るい予兆を見出す気がした。
“SOAとは何か?”
かすみは、まずウェブの検索エンジンで徹底的に関連情報を集めはじめた。
しかし、ITが専門であるかすみにさえも、なかなか実体がつかめなかった。これはミドルウエアのことなのか?
そのようにも見える。
システムのウェブ化のことなのか?
そのようにも見える。
現在のアプリケーションを生かして再整理することなのか?
業務プロセスを最適化することなのか?
SOAを打ち出している各社のサイトには、さまざまな要素が並べられているのだが、どれを見ても、企業がSOAを採用することで具体的にどのような成果や効果が生まれ、結果的に何を得られるのかというポイントが今ひとつ見えてこない。
システムはいかに組み上げられ、同時に何が課題となるのか?
かすみは、大学の先輩でコンサルティング・ファームに勤めている
堀田友紀子を夕食に誘い、話を聞いてみることにした。
「かすみ、それは、考え方を変えないと理解しにくいことかもよ」
「考え方?」
「そう。今ね、アメリカ軍で戦闘組織の見直しが始まっているって、知ってる?」
かすみは、思いがけない話の展開にとまどった。
「戦闘組織の見直し……何ですか、それ?」
「そうだよね、順を追って説明しなくちゃね。まず、昔の戦闘というのは、武装集団同士が群れを作って、いわゆる『前線《フロントライン》』を挟んで向かい合い、それから激突して、群れが崩れたほうが負けになったわけ。それは、日本の戦国時代も、ナポレオンの時代も、敵味方とも何十キロにも及ぶ塹壕に潜んで対峙していた第一次大戦もみんな同じ。こういう戦闘は、大将から兵隊までがタテ型のヒエラルキーに属していて、それぞれ決められた組織行動をすることが前提だったのよ。
ところが、20世紀には、この手法が通用しない戦闘がたくさん起きるようになったの。」
「へぇ……?」
「代表的なのはベトナム戦争。あるいは、最近の例を挙げればイラクの治安維持活動。定まった明確な前線が存在しないの。どこに敵がいて、どんな状況が待ち構えているのか分からない。想定すべきifがものすごく多いから、組織行動の前提を作れないのね。戦っている個人が自分で判断するとともに、指示や支援をしてくれる人と直接のコミュニケーションが成立していないと効果的な戦闘が出来ないわけ。目の前の状況が予想外に次から次へと変化するとき、事前の命令やどこか上のほうから降ってくる指令では役に立たないじゃない?」
「幾ら想定していても、現実の動きに追いつかないんですね?」
かすみの言葉に、友紀子がうなずく。
「そうなの。そこで、このような戦闘に対応するため、兵士の目線で とらえた現場を後方でも共有することのできる画像装置、音声装置、 それからGPSやコンピュータ端末をひとりひとりに持たせることが 考えられた。
軍の固定化した一方向のヒエラルキーを超えて必要な情報がムダ なく流れれば、事態が正確に把握され、その結果、現場を支援する ための人的資源、物的資源も有効に活用されるはずでしょう?
こうして、ITの時代だからこそ可能な組織、事態の急変に即時に 対応できる新しい組織が考案されて、部分的には装備の開発、 組織の改編が実現したの。」
「なるほど……。
でも、その戦闘組織がSOAに関係あるんですか?」
「もちろんそのままではないけれど、SOAが示しているパラダイムシフトはとてもよく似ているわ。機能別の大きくまとまった“塊”を動かすのではなくて、分散している“個”が有機的につながり合って、それぞれの目的を果たす仕組みになっていて、しかも統合されているという点でね。だから、SOAは単なるソリューションではなくて、アーキテクチャーなのよ。」
友紀子は、SOAとは「ひとまとまりの業務機能を“サービス”として抜き出し、必要な人に提供する仕組みを構築する方法論」なのだと説明した。それを実現するだけで企業の動きは相当に早くなる。たとえば、新たな業務プロセスが発生しても“サービス”の組み合わせを変えたり、既存の“サービス”を再利用して対応できるので、組織や外部環境の変化への対応時間も非常に短縮される。戦う企業に必要な俊敏性、アジリティの実現に確実に寄与する。一部のアプリケーション資産はそのまま活用することも可能だ。その代わり、アーキテクチャーを変えるのだから、“サービス”の定義を変えなければならない。また、データの変換や利用者の利便性の向上によってサーバーやネットワークへの負荷が必然的に上がるので、インフラの強化が必須条件となることを踏まえ、一定の覚悟の上で導入する必要があると付け加えた。
「ただ形だけSOAを採用すれば総てが上手くいくというわけではないのよ、そこは気をつけないとね。アジリティを実現するにはどうすべきか。事業戦略的な分析も必要だし……。」
かすみは、友紀子の話を聞いたことで、SOAというもののイメージが自分の中で格段にはっきりしたものになった気がした。
『間違いなく、ヤマタイ産業にとって役に立つコンセプトのはずだわ。』
友紀子はかすみに向かって、日本ヒューレット・パッカードのセミナーへ参加してSOAに関する知識を確実なものにすることを勧めた。
「その上で、SOAコンピテンシーセンタのデモンストレーションを体験するといいんじゃないかな。ビジネスシーンに対応したストーリーになっているから、理解が深まると思うよ。」
「分かりました、先輩、ありがとうございます。」
『よし、がんばるぞ。』
かすみは、桐原が喜ぶ顔を想い浮かべ、ますます意欲を燃やしていた。
「やる気十分みたいね? じゃあ、今晩はかすみのおごりってことで。」
「ええっ!?」
かすみが小さく悲鳴を上げた。
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| (つづく) |
| 制作クレジット |
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| 脚色: |
大西赤人 |
| シノプシス作成: |
日本ヒューレット・パッカード シニアコンサルタント近藤史人 |
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