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欧米大手金融機関でのキャピタルマーケットの動向
海外の証券、投資銀行市場では、アルゴリズミックストレーディングなどの新たな取引手法を活用したビジネスを推し進められていますが、これらのシステム基盤として最新の技術を積極的に導入し、コストパフォーマンスの高いシステムが利用されています。競合他社に対しての差別化、コンプライアンスの遵守などを実現するためにどのようなイノベーションを行っているのでしょうか。

コストパフォーマンスの高さでUNIXからLinuxへ

金融業界の中でも、以前からキャピタルマーケットでは先端的なシステムが活用されており、いち早くメインフレームではなくミニコンピュータを導入し、その後UNIXを積極的に活用してトレーディング、リスク管理システムなどが構築されていました。2000年以降、主にUNIXで構築されたディーリングシステムをLinuxへと移行が進められており、特に自社開発で機能の差別化を求める大手金融機関にとって次世代のシステムインフラにLinuxを選ぶ理由として、コストパフォーマンスの高さ、UNIXアプリケーションの移植性の高さ、UNIXエンジニアのLinuxへの移行教育の容易さ、特定ベンダーに依存しないなどの点が上げられました。Linuxという言葉を聞くと“安いコスト”というイメージがつきがちですが、本質的な大きなメリットは“コストパフォーマンス”にあります。例えば、従来UNIXサーバでリスク管理アプリケーションを使用していたときに、次世代のシステムをLinuxに切り替えればコストが安くなることはもちろん、パフォーマンス面での余裕、拡張性は汎用チップを使用したLinuxサーバの方が十分に有利な状況になります。

あるベンチマークテストでは、2003年時点ではUNIXに対してLinuxで同じアプリケーションを走らせたとき3〜4倍のパフォーマンスがありましたが、2003年のLinuxでの結果と2005年でのLinuxの結果を比較すると約10倍近くにもなります。このように、汎用チップ上での稼動可能なシステムを選択することは将来にわたってのシステムのパフォーマンス向上を期待することができます。 キャピタルマーケット全体では、市場参加者である証券会社、投資銀行、資産運用会社サイドのトレーディングシステムなど、既に幅広くLinuxが使用されており、多くのエンジニアがスキルをUNIXからLinuxへ移しているため、この動きは後戻りすることはないでしょう。

ミッションクリティカルかつ極めて大量のトランザクション処理が必要な取引所では、売買などの取引処理、精算処理には引き続きHP NonStopサーバなどの高い信頼性を実現するサーバ群が使用されていくことでしょうが、投資情報、相場情報などの情報参照系には一部でLinuxを採用する動きも始まっています。こういったLinuxとミッションクリティカルなシステムを実現するためのHP NonStopサーバなどを共存させる“ハイブリッドモデル”の採用も進んでいくことでしょう。

最近ではLinux上で稼動するアプリケーション、データベースにオープンソースを活用する動きも盛んになってきており、アプリケーション構築基盤のJBossやシステム連携のopenadoptor、データベースのMySQLなどが徐々に市場に浸透しつつあります。コストの安さなどが魅力ですが、当然ながらサポートの充実も必要とされています。各オープンソースの特徴、サポート体制などを十分に理解した上で活用すべきですが、コストパフォーマンスを高め、また迅速なビジネスニーズに対応したシステム構築には有効な手段となっていくことでしょう。


計算の高速化を実現するグリッドコンピューティングの導入

また、リスク管理やデリバティブのプライシング計算などにグリッドコンピューティングの導入も非常に積極的になっております。グリッドコンピューティングというと科学技術計算用のハイパフォーマンスコンピューティングを連想しがちですが、近年では、金融機関の計算エンジンとしても幅広く使用されてきています。日本の金融機関でも昨年あたりから導入が始まっていますが、欧米の大手金融機関では既に数千CPUのグリッドコンピューティングも導入されています。このシステムはブレードサーバなどの上に、Platform社やDataSynaps社などのグリッドミドルウェアを搭載して、高速な並列計算を実現し、従来数時間かかっていた計算処理が数十分で終了するなど、Excelのマクロから高度なデリバティブの計算処理までをグリッドのミドルウェアがプライオリティ付けして複雑な計算が必要な多種の処理を最適な処理環境で実行されています。

欧米の金融機関でも、当初はアプリケーションごとにサーバを立てて、グリッド計算による処理を実現してきましたが、その後計算プールのような形態でまとまったCPUリソースを確保して複数のアプリケーションを高速に計算処理するようになってきています。また、遠隔地にあるCPUもあたかも一つのリソースのように活用されており、例えば、ディザスターリカバリーサイトにあるCPUも活用して計算処理を行っている金融機関も存在します。今後、東京−ロンドン−ニューヨークなどの海外拠点を結び、時差によって空いたCPUを活用するなど大陸間をまたがっての処理も検討されてくることでしょう。

グリッドコンピューティング環境のスケーラビリティ
図:グリッドコンピューティング環境のスケーラビリティ

このように、キャピタルマーケットでは最新のIT技術を利用し、かつコストを抑えながらトレーディングの高度化が進んできております。また、同時にコンプライアンスへの対応も取り組まなければなりませんので、グリッドコンピューティングによる計算の高速化も、競合への対応のみならず適切なコンプライアンスへの対応が必要となってくるでしょう。 例えば従来、業務後の夜間に計算していたポジション計算も、日中に何度も計量化したいニーズがあるとした場合、数時間の処理時間では対応できず、数十分などの単位での計算性能が必要になるでしょうし、また、期末などでの監督官庁への調査レポート作成のために高速な計算インフラの整備も必要になってくるでしょう。このような、複合的なニーズをグリッドコンピューティングによって解消することが可能になります。

今後もより高度なトレーディング手法、システムが必要なキャピタルマーケットにおいて、先進のシステム動向を十分に理解し、活用することがビジネスによいインパクトを与えることになると思われます。また、キャピタルマーケットでは、自社のアプリケーションはもちろんのこと、国内、海外のアプリケーションを十分に調査し活用する必要もあります。このためにはグローバルで標準なシステムインフラを採用し、体系だったシステム構築を行なうことが重要で、このような環境が整えば最適なソリューションを速やかに導入することが可能となります。システム技術とビジネスを強く結び付けることができれば、よりよい競合優位性を得ることができるでしょう。

日本ヒューレット・パッカード株式会社
マーケティング統括本部インダストリーマーケティング本部
三身 徳人

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